日本国内のE-MTB市場の中でも人気モデルと言えるのが、ヤマハ・YPJ-MT Proだろう。2020年に初代モデルが登場したYPJ-MT Proは登場時は60万円台後半と高価な価格だったが、人気となり日本E-MTB界の絶対王者に君臨している。シクロライダーでも初代モデルを評価した時、「YPJ-MT Proを乗らずしてE-MTBは語れない」とインプレ記事を書いており、様々なEバイク企業にYPJ-MT Proの購入を薦めており、YPJ-MT Proを超える物を作れとハッパをかけている。
そんなYPJ-MT Proは、2022年にビッグチェンジを行った。特に注目する所は、最新型のヤマハPW-X3モーターを搭載している所だろう。今回、ヤマハ・YPJ-MT Pro PW-X3搭載モデルの試乗を行うことができた。
電動アシスト自転車の先駆者であるプライドを見せつけた「ヤマハ PW-X3モーター」
筆者がYPJ-MT Pro PW-X3搭載モデルのニュースを見て、真っ先に驚いたのは日本市場でも最新型モーターであるPW-X3を投入したことだろう。世界のEバイク企業やサプライヤーの殆どは日本市場はどうでも良いと思われており、延々と古いモーターを投入し、日本国内用モデルは旧態化したモーターを搭載したモデルもあるが、ヤマハ・YPJ-MT Proは北米市場モデルや欧州市場投入予定モデル(海外名:YDX-Moro)も同じPW-X3モーターを搭載している。
PW-X3モーターは、初代YPJ-MT Proに搭載されていたPW-X2モーターに比べて、約20パーセントの小型化と約10パーセントの軽量化を実現。この超小型化により、E-Bikeメーカー各社は、理想的なフレーム形状やサスペンションの運動特性、地上高の確保することができるとのこと。
初代YPJ-MT Proに搭載されていたPW-X2は、日本国内なら全く改良を行っていなくてもあと2~3年は戦える性能を持っており、PW-X3が登場した現在もトップクラスの性能を持っている。しかし、PW-X3はヤマハ発動機のフラグシップモーターであるため、きっちりと進化している。
PW-X3のアシストの音質はPW-X2の低音のグイーン系からヒューン系に変化。因みにボッシュ パフォーマンスラインCXマイナーチェンジモデルもヒューン系と変化している。タイヤのブロックノイズが少ない舗装路の低速域や、タイヤノイズが発生しにくい草むらに入っても明らかに静音性が向上したと実感する。アシスト比率の追い込みに関しては、PW-X2と同じく相当追い込んでいる。アシスト比率の追い込みに関しては、ヤマハ発動機の斜度センサー付きモーター(PW-X2、PW-X3、PW-ST)がトップだろう。
ワイズロードの社員試乗会は舗装路の短距離でしか走行できなかったので、PW-X3の詳しい特性を把握することができなかったが、今回はオフロードでPW-X3の特性を把握することができるようになった。
PW-X3は、PW-X2の癖が無くて踏んだ時や漕ぐのを辞めた時に、瞬時にアシストが切れる乗りやすい特性をそのまま受け継いでおり、パワー、トルク、レスポンスアップしていると感じた。パワー、トルク、レスポンスが上がったためか、PW-X2モーターのときは、オフロード走行では最大アシスト力を発揮する「EXPW」モードしか使用していなかったが、PW-X3モーターでは、EXPWモードだけでなく、HIGHモードなどを使用する価値が出たと感じた。
踏んだ時のアシストのレスポンスや漕ぐのを辞めた時に、瞬時にアシストが切れる感覚に関しては、これ以上の反応は限界では?と思うほど向上している。
圧倒的な静音性能、スタート時のトルクの出し方、漕いだときにアシストが瞬時に停止する感覚、ハード面に関してケチを付ける所が全く無い。小型化による弊害は全く無く、ヤマハPW-X3はモーターの小型化を全く言い訳しておらず進化させた。
ディスプレイに関しては、走行モードとバッテリー残量が確認できるLEDインジケーター表示となる。スピードなどの表示を行う際は、Bluetoothまたは、ANT+を通してサードパーティーのサイクルコンピューターとの接続が必要となる。クラッシュ時の耐久性を重視し、金属製の台座や液晶画面を排除したのは良いが、スペシャライズドのEバイクのように、スマートフォンと接続することで簡易サイクルコンピューターとして使用できるなどの一捻りが欲しいと思った。
PW-X3は、電動アシスト自転車のリーディングカンパニーとしてのプライドを見せたトップクラスのモーターだ。
車体設計の利点と欠点は初代YPJ-MT Proと同じ
YPJ-MT Proと言えばモーターがすごいと思われているが、車体も注目すべき所だ。車体重量が重いのに、カーブが曲がりやすく、前輪を気軽に上げることができるという”物理の神様を超えようとする車体設計”は、PW-X3モーター搭載モデルでも健在だ。
パワーとハンドリングを両立した驚異のフルサスE-MTB ヤマハ YPJ-MT Proをインプレ – シクロライダー (cyclorider.com)
パワフル、ハイレスポンスなモーターと”物理の神様を超えようとする車体設計”により、落ち葉で段差や石が隠れている急坂を滑らないで走る遊びができる。これができるのは旧型YPJ-MT Pro(PW-X2)と、現行型YPJ-MT Pro(PW-X3)ぐらいだろう。
但し、バッテリーの脱着に工具が必要で、なおかつ鍵が装備されていないため通勤などの日常利用には向かない、ボトルケージ台座が無いため、アクセサリーやボトルケージの装着が難しい、サイドスタンドの装着ができないなどの、初代YPJ-MT Proの欠点は今でも残っている。
ヤマハ・YPJ-MT Proの課題は?
PW-X3モーター搭載のYPJ-MT Proは完成度は高いが、課題は無くもない。例えば、海外ではスマートフォンとEバイクを接続することで、走行データの記録やアシストチューニング、モーターやバッテリの異常を知ることができる。これは、実際に使うと意外と便利な機能なので、YPJ-MT Proにも装備して欲しい。
また、ボトルケージが装着できないという問題も解決してほしい。ボトルケージが装着できないという問題は結構大きい。近年はハンドルバーにポーチを装着する方法もあるが、オフロードライドを行う上で、ハンドルにボトルを装着するとハンドリングに影響がある。将来的にはZEMO SU-E FS 11のように、ヘッドチューブ付近に専用アダプターを装着するなどの改善が必要だと思う。
YPJ-MT Proのバッテリー容量は500Whで、スマートフォン充電やSUPERNOVA等のハイビーム付きヘッドライト等を装着すると心許ない。海外では700Wh以上のバッテリーが主流になりつつある。ただ、YPJ-MT Proは、デュアルツインフレームにより上下スペースがある。ファンティックE-MTB 720Whバッテリー搭載車のように、バッテリーを多少飛び出す方法を行えば解決する可能性がある。ヤマハ発動機のデュアルツインフレームは、大容量バッテリー化が進むEバイク事情を見ると、将来的に大きなアドバンテージになるだろう。
2023年も「YPJ-MT Proに乗らずしてE-MTBは語れない」は健在
筆者は、2023年1月のワイズロード社員試乗会でPW-X3搭載YPJ-MT Proに乗った時、ヤマハ発動機の担当者に「なんで、唯でさえ日本国内最高峰のE-MTBを進化させるのか?」と言ったことがある。初代YPJ-MT Proはそれほど相当高いレベルでまとまっていると感じており、PW-X3モーター搭載YPJ-MT Proが、どれだけ進化したか疑問に思っていた。実際に乗ると、PW-X3モーターの進化は実感することができた。
YPJ-MT Proは、日本国内では年間予定販売台数が300台と、70万円以上する高価なEバイク(性能を考えると安いが)ではよく売れている。そのため、日本国内のE-MTB市場ではあまりにもYPJ-MT Proが強すぎるためPW-X3モーターを搭載したEバイクが日本国内に展開するのが難しいという事態となりつつある。実際、PW-X3搭載E-MTBのブランドの輸入代理店である某社は、日本市場にPW-X3搭載E-MTBを導入しようとしてもYPJ-MT Proがあるため見送ると語っていた。
因みに、北米市場、欧州市場では、GASGASやHaiBike、FANTICなどのブランドがPW-X3モーター搭載E-MTBを販売しているが、YPJ-MT Pro(海外名:YDX-Moro)が参入するとなれば”身内の潰し合い”になる可能性もある。
今回のYPJ-MT Proは、進化したモーター、初代モデルと同じく類を見ない車体性能、3年間盗難補償が付いて74万8000円(税込)と非常に安い。新型YPJ-MT Proも、初代と同じくフルサスE-MTBを購入する場合、最初に試乗しておきたい1台だ。
ただ、2023年のYPJ-MT Proに関しては大きなライバルの登場が噂されている。ヤマハ発動機のライバルである某大手企業が新モーターの導入を予定している。筆者は発表前に特別に試乗したが、PW-X3と比較して非常に甲乙つけがたい状況となっている。某大手企業の新モーター搭載E-MTBがYPJ-MT Proをどれだけ追撃することができるか注目だ。
文:松本健多朗
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