電動アシスト自転車やE-Bikeを選ぶ時に気になることの1つと言えば、どの電動アシスト自転車やE-Bikeが力強くて、楽にアシストしてくれるかということだ。日本の法律ではアシスト比率は最大2倍と定められているが、人間の脚力が最大出力600w以上、最大トルクがクランク軸換算で160Nmと非常に力強いため、どんなモーターでも同じ力でアシストするわけではない。
力強くアシストを行うE-Bikeを選ぶとき、参考になる数字が最大トルク。一般的には最大トルクの数字が大きいと力強いアシストが得られると言われている。
そこで、今回は電動アシスト自転車やE-Bike用ドライブユニットの最大トルクをランキング。ランキングに登場するのは、欧州で電動アシスト自転車の範囲に入る定格出力250W、最大アシスト速度25キロメートルのドライブユニットが対象。EUはヨーロッパ仕様、JPは日本仕様で太字となっている。
電動アシスト自転車・E-Bike用ドライブユニットの最大トルクランキング
- TQ HPR120(EU):120Nm
- SACHES RS(EU):110Nm
- Yamaha PA(JP):100Nm
- Nidec 41R(JP):95Nm
- Brose Drive S (EU):90Nm
Brose Drive TF(EU):90Nm
Specialized Turbo Full Power 2.2(EU): 90Nm
Polini E-P3+ MX(EU):90Nm - Bosch Perforance Line CX Gen 4 2021(EU、JP):85Nm
Shimano EP8(EU):85Nm - Bafang M400(JP):80Nm
GIANT SYNCDRIVE PRO(JP):80Nm
Yamaha PW-X2(EU):80Nm - Bosch Perforance Line CX Gen 4 2020(EU、JP):75Nm
Polini E-P3+(EU):75Nm
- Shimano STEPS E8080(JP):70Nm
GIANT SYNCDRIVE SPORT(JP):70Nm
Brose Drive T Alu(EU):70Nm
Yamaha PW-ST(EU):70Nm
Yamaha PW-SE(EU):70Nm - Bosch Perforance Line 2020(EU):65Nm
- Forestal Eon Drive(EU):60Nm
Shimano STEPS E6180(JP):60Nm
Shimano STEPS E6100(EU):60Nm
Shimano STEPS E7000(EU):60Nm
Yamaha PW-TE(EU):60Nm - FAZUA Evation(EU):55Nm
- Bosch Active Line Plus(EU、JP):50Nm
Brose Drive C(EU):50Nm
Yamaha PW-CE(EU):50Nm - Shimano STEPS E5080(JP):40Nm
Shimano STEPS E5000(EU):40Nm
Bosch Active Line(EU):40Nm - Specialized SL1.1(EU、JP):35Nm
日本国内で一番力強いトルクを実現したのは「Yamaha PA」
日本国内で一番力強いトルクを実現したドライブユニットは「Yamaha PA」。
E-Bikeに詳しい人でも知らないYamaha PAユニットだが、このユニットはヤマハ発動機の電動アシスト自転車「PASシリーズ」に使われている。PASシリーズでは最大トルクをカタログで紹介していないが、プレスリリースでは、最大トルク100Nmと紹介されている。
ちなみに、高トルクを発揮するE-MTB用ユニット(最大トルク70Nmから80Nm)と比較して乗っている人は、電動アシスト自転車が最大トルクが100Nmあっても、パワーはトルクが少ないE-MTB用ユニットのほうがあると思うだろう。この理由に関しては後述するが、簡単に言うと、最大トルクはパワーを表しているわけではないからだ。
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日本国内仕様で最強トルクを誇るE-Bike用ユニットは「Nidec 41R」
日本国内仕様で一番強いトルクを実現したE-Bike用ユニットは日本電産の「Nidec 41R」。最大トルクは95Nmと、非常にトルクが大きい事で注目されている。しかし、2021年6月14日現在、日本市場でNidec 41Rを搭載したE-Bikeは販売されていない。現時点ではSTREEK ACTIVE CARGO TRIKEに搭載される予定だ。
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最大トルクの値は、アシストの力強さの参考にはなるが、実際の走行感覚の違いは絶対理解できない
最大トルクの値は大きければ大きいほど、ある程度はアシストの力強さを知ることができるが、実際の走行感覚の違いは絶対理解できない。
例えば、Bosch Performance Line CXの最大トルクは75Nmだが、繊細に反応するアシストに、オフロード走行で威力を発揮する可変アシストモード「eMTBモード」を採用することで、滑りやすい上り坂も走りを楽しむことができるペダリングコントロールを実現した。
関連記事:街・峠・山のすべてを走破する怪物E-MTB「TREK Rail 9.7」をインプレ【E-Bike】
最大トルクが近い値でも、全く走行感覚が違う例がBenelli TAGETE。Benelli TAGETEは最大トルク80Nmを発揮するBafang M400を搭載しているが、Bosch Performance Line CX(75Nm)とは全く違う走行感覚となっている。僅かに踏んだだけでビュッと前に出る走りは、タイトターンで微妙なペダリングの強弱を加えても上手く反応せず、力強く前に行こうとしてしまうため、E-Bikeの醍醐味は、脚とシンクロしたペダリングコントロールができない。
最大トルクの値はあくまでも値で、実際の走行感覚の違いは絶対理解できないと覚えておこう。
最大トルクは最大出力を表しているわけではない
日本国内、国外に限らず、殆どのメディアでは、E-Bikeの最大トルクを実質的な最大出力と捉えていることが殆どだが、トルクは「力学において、ある固定された回転軸を中心にはたらく回転軸の周りの力のモーメント」のことを表しているのであって、最大出力を表しているわけではない。
最大トルクを最大出力を勘違いしているメディアが多いが、最大トルクだけで語るのは、自動車で言うと、最高出力1001馬力、最大トルク1600Nmを発揮するスーパーカー「ブガッティ・シロン」よりも、最高出力450馬力、最大トルク1961Nmを発揮する大型観光バス「日野・セレガ」のエンジンのほうが速いと言っているのと同じだ。
最大トルクだけで語るのはE-Bikeインプレ記事としては論外だが、なぜこのような異常事態が発生しているのかというと、殆どのメーカーが最大出力を公開していないため。
一般的な電動アシスト自転車やE-Bikeで公開されている定格出力は長時間連続して出力できる値。EUの電動アシスト自転車/E-Bikeの法律では、定格出力が最大250Wまで制限されている。そして、注意したいのは定格出力は実際の出力(最大出力)を表しているわけではない。
最大出力は、瞬間的に定格出力を越えて供給できる出力のこと。常時モーターの出力が出せるわけではないが、上り坂や加速時に高いケイデンスで漕ぐと最大出力に達するため、最大出力は重要だ。
この定格出力は、最低でもこのくらい力があるという値のため、最大出力が定格出力以下だと違法となる。一方で、最大出力が定格出力を超えても特に問題はない。
自動車では、かつて日本に最大出力280馬力規制というのがあった。E-Bikeの定格出力250W規制を自動車の馬力規制で表すと、平均出力280馬力規制で、それ以上の出力を出しても問題なく、平均馬力表記は実質的メーカーの自己申告。平均出力280馬力で、最大出力270馬力だと違法だが、最大出力1000馬力だしても問題ないという状況だ。
関連リンク:自動車馬力規制(Wikipedia)
そのため、某E-Bikeサプライヤー広報担当者曰く「EUの定格出力制限は、実質的に出力制限の意味がないザル法」と言う人もいる。よく定格出力と最大出力と同じと捉えるメディアもいるが、当然評論以前の問題で論外だ。
ここで問題になるのが、殆どのメーカーやブランドは最大出力を公開しない事。筆者が知る限りではSpecializedだけで、殆どのメーカーは定格出力だけしか公開しないため、公式情報で実際のモーターパワーを知ることができない。筆者が知る限りでは非公式情報などを集めた所、トルクが強いE-MTB用ユニットは最大出力500Wクラスが多いようだ。
高トルクを発揮するE-MTB用ユニット(最大トルク70Nmから80Nm)と比較して乗っている人は、電動アシスト自転車が最大トルクが100Nmあっても、パワーはトルクが少ないE-MTB用ユニットのほうがあると感じるが、これは、最大出力がE-MTB用ユニットのほうが高出力なためだ。
最大トルクはあくまでも、モーターの実力の参考値にしかならないが、アシストの力強さの参考程度にはなる情報だ。もしアシスト力が強いモーターを選ぶ場合、取り敢えずモーターの最大トルクが大きい電動アシスト自転車やE-Bikeに試乗することをお勧めする。