インホイールモーターが傍流な理由とは? 利点と欠点を電動アシスト自転車を例に解説

電動アシスト自転車、E-Bikeの駆動方式を大まかに2種類に分けると、車輪にモーターを内蔵したインホイールモーター(ハブモーターとも呼ばれる)と、クランク周辺にモーターを装備し、チェーンにアシスト力がかかる「ミッドドライブ」に分けることができる。

ミッドドライブの例(ヤマハ・PW-X2)
インホイールモーターの例(BESV オリジナルユニット)

E-Bikeの駆動方式で主流と言えるのはミッドドライブで、インホイールモーターは傍流と言える状況だ。E-Bike業界では、インホイールモーターはシェア争いを行う大手企業のほとんどは参入していない。ボッシュは一度もインホイールモーター用E-Bikeキットを製造したことがなく、ヤマハ発動機は2001年に「パススマイル」(URL:電動アシスト自転車の歴史はヤマハPASから)で、インホイールモーター車を用意したが消滅。シマノは最初期のSTEPSはインホイールモーターを採用していたが消滅(URL:WIRED)。パナソニックも現在は生産していない。

電動アシスト自転車やE-Bike以外でも、インホイールモーターを採用している乗り物は少ない。インホイールモーターを比較的採用している電動オートバイでも、採用している会社のほとんどが中国製のモペットタイプで、高価なモデルでは採用されていない。電気自動車でも2021年5月1日現在、大手主要電気自動車には採用されていない。今回は電動アシスト自転車やE-Bikeから見たインホイールモーターの利点と欠点を紹介しよう。

インホイールモーターの利点

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Electric_bicycle

インホイールモーターの利点で最初に思い浮かべるのが、車体設計の自由度が広がること。ミッドタイプのモーターの場合、クランクにモーターを搭載するため、どうしても車体デザインの自由度が減ってしまう。インホイールモーターの場合、モーターを車輪に装着するため、車体デザインに自由度が増す。

また、駆動力がホイールに直接伝達されるために、従来型のギアや駆動軸などによるエネルギー損失がないと言われている。

他にも、各車輪を個別に制御する事が可能になるため、駆動力の配分を自在に変更できる。そのため、横滑り防止装置やトラクションコントロールシステムの発展が期待されると言われている。かつて存在したサンヨーのカーボンフレームを採用した電動アシストスポーツ自転車「CY-SPK227」には、車輪がスリップする状況でも、ペダルをこぐとモーターが回転を続ける「スポーツトラクションモード」を搭載したと謳っていた。

インホイールモーターの欠点

インホイールモーターは様々な利点があると言われているが、最初に述べた通りインホイールモーターを採用している乗り物は少ない。

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Electric_bicycle

インホイールモーターの欠点でよく言われているのがバネ下重量の増加だ。海外では電動アシストロードバイクなどで使われているMAHLE EBikeMotionのハブモーターの重量は2.1キログラム(URL)。シマノ 105 ディスクブレーキ E-スルー アクスル リアフリーハブ「FH-R7070」の場合、重量は僅か361グラムだ。

自転車にバネ下重量を軽くするのは効果があると言われており、ホイールを軽くするのは効果がある。しかし、ハブモーターにするとバネ下重量が非常に重くなってしまう。

Specialized Vado SLシリーズはミッドドライブを採用している

そしてチェーンやベルトに直接アシストの力がかかるわけでは無いため直結感が無い。大手E-Bikeブランドがミッドドライブを採用する理由は、モーターアシストをクランク軸に直結して伝え、繊細なアシストを行いパワードスーツを着たように思いのままにアシストをさせるのもある。

あまり言われていないのがインホイールモーターはパワーやトルクを上げるのが難しいこと。モーターは、パワーとトルクを上げるために内部に減速ギアを入れる必要があるが、インホイールモーターの場合、スペース的な問題でギアを入れるのが難しいためパワー、トルクを上げるのが難しい。

出典:https://bafang-e.com/jp/

例えば、BAFANGだと定格出力250Wクラスのリアインホイールモーター「H400」の場合、モーター重量は3キログラムで最大トルクは僅か30Nm。

出典:https://bafang-e.com/jp/

定格出力250Wクラスのミッドドライブモーター「M400」の場合、モーター重量は3.9キログラムで最大トルクは80Nm。出力に関しては定格出力は最大出力を表しているわけではないので、実際の最大出力は不明だ。

インホイールモーターもモーターサイズを大きくすれば、モーターパワーを大きくすることができるが、同時にモーターが重くなりバネ下重量が重くなる問題がある。

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Electric_bicycle

インホイールモーターは後輪駆動タイプと前輪駆動タイプの2種類に分かれるが、前輪駆動タイプには、特有の問題がある。前輪にインホイールモーターを搭載した多くの電動アシスト自転車やE-Bikeは、旋回時にもっさりとした重さを感じる。また前輪は、後輪よりも荷重がかかりにくいためモーターパワーを路面に伝えにくいことが発生する。これが問題になるのは、モーターパワーが必要な子供乗せ自転車やE-MTBで問題になる。

現時点ではインホイールモーター搭載E-Bikeはコミューター専用

夢のモーターとして言われているインホイールモーターだが、バネ下重量が重くなる、モーターパワーが少ない等の問題があるため、採用事例は少ない。電動アシスト自転車やE-Bikeに関しても、インホイールモーターを採用しているE-Bikeのほとんどは低価格帯のモデルか街乗り用のコミュータータイプぐらいだ。

インホイールモーターも特性をうまく使えばBESV PS1(記事)のような成功作を作ることができるが、インホイールモーターはスポーツモデルには不向きだろう。特にE-MTBの場合、パワーやトルクが不足しており、ホイールが破損するとリム交換で修理に時間がかかる。2021年現在、インホイールモーターを搭載したE-MTBはルック車と言っていい状況だ。

海外では電動アシストロードバイクにインホイールモーターを採用している事例が増えており、有名ブランドでも採用している。しかし、筆者の考えはバネ下重量問題があるため、現在主流のミッドドライブに統合されると予測している。インホイールモーターが主流になるには、革新的な技術で大出力・軽量化を両立できないと駄目だろう。

文:松本健多朗

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