モーターのアシストで気軽に自転車が楽しめるE-Bikeの欠点の1つが重量だ。多くのE-Bikeはクロスバイクタイプでも車体重量18キロと、一般的な人力スポーツ自転車と比べて重い。これは、車体を頑丈にしただけでなく、モーターとバッテリーが重いため、必然的に車体重量が重くなってしまうためだ。
E-Bikeは車体重量が重いという常識が一般的になりつつある中、登場したのがSpecialized Turbo SLシリーズだ。Specialized Turbo SLシリーズの一番の特徴はE-Bike界の流れの1つである「パワフル」という考えを排除して「軽さ」を重視したこと。
例えばモーターは、従来のE-Bikeに搭載されている定格出力250W(最大出力はそれ以上出る)、70Nmといったパワフルでハイトルクな力強いモーターではなく、最大出力240W、最大トルク35Nmと、過剰なパワーとトルクを抑えた、Specialized製軽量モーター「Specialized SL1.1」を搭載。
バッテリーも、完全内蔵式の軽量バッテリーを採用した。車体重量は、カーボンロードバイクタイプのS-WORKS Turbo Creo SLが12.8キロ、フルサスペンションMTBタイプでは、カーボンフレームタイプのS-Works Levo SLのLargeサイズが17.35キロ。アルミフレームのTurbo Leco SL CompのLargeサイズが19.4キロ。クロスバイクタイプのTurbo Vado SL 5.0が14.9キロと、E-Bikeの世界では軽量なのがわかるだろう。
今回、インプレッションを行うのは、Specialized Turbo Vado SL 4.0。Turbo Vado SLは、日本市場で購入できるSpecialized製のクロスバイクタイプのE-Bike。価格は36万3000円(税込、以下同)と、Specialized製E-Bikeの中では一番安いのも特徴だ。今回はTurbo Vado SL 4.0のインプレッションをお届けする。
Turbo Vado SLの車体をチェック
最初にTurbo Vado SLの車体をチェックしよう。クロスバイクのVado SLの基本的な車体デザインは、Specializedの人力クロスバイク「Sirrus X」に似ている。Sirrus Xは砂利道も楽しめるグラベルスタイルのクロスバイクだが、フレームデザインだけでなく、フェンダー装着時の装着可能なタイヤ幅(どちらも700×38Cまで)、装着可能なタイヤ幅(どちらも700×42Cが対応可能)、フロントシングルギアのドライブトレイン、砂利道対応のグラベルタイヤ「Specialized Pathfinder 38c」を搭載するなど、似通っている所が多い。
車体は、E-Bikeとしては非常にすっきりとしたスタイリングだ。E-Bike特有のファットな雰囲気が無いのは、完全内蔵式バッテリーを採用したことにもある。一般的なE-Bikeに使われている内臓タイプのバッテリーは容量500Whから630Whと大容量なため幅がある。そのため、どうしても従来の自転車よりも太めに見えてしまうが、様々な自転車ブランドは、それを逆手に取り、凝った造形を行い従来の人力自転車とは違う魅力を出している。
Vado SLに搭載されている内蔵式バッテリーの容量は320Wh。一般的なE-Bikeよりも少ないバッテリー容量を採用したのは軽量化だと思われるが、副次的にバッテリーも小さくなったためスマートなルックスを実現した。
しかし、車体をよく見ると、トップチューブ、ダウンチューブ、シートチューブ、フロントフォークに至るまで、人力自転車よりも一回りや二回りほど太いのがわかるだろう。これは、デザイン上の理由やE-Bikeのパワーに耐えるための剛性アップだと思われる。しかし、一瞬でも人力自転車と変わらないデザインに見えるのは、フレームパイプの太さをバランス良く太くしているのもあるだろう。
バッテリーは完全内蔵式で、オーナー自身がバッテリーを着脱するのは想定されていない。バッテリーの充電方法はドライブトレインの反対側にある充電口に、充電ケーブルを差さないといけない。充電口の蓋は、プラスチック製でパタンと開ける事ができるため、蓋の閉じ忘れが無いのは良い。
スピードなどを表示するディスプレイは無い。ハンドルステムに装着するためのGARMINマウント(所謂edgeマウント)が付属されており、オプションのSPECIALIZED TURBO CONNECT DISPLAY (TCD)を装着することができる。
また、スマートフォンアプリ「MISSION CONTROL」を入れると、スピードメーターやバッテリー残量が表示される。古いスマートフォンにも対応しているのは良いだろう。
フロントとリアにはライトを装備。フロントライトは Lezyne Ebike Hecto STVZO E65, 210Lumens, 12V。リアライトはSpecialized integrated saddle mount, LED Technology, 12V。テールライトはサドルに装着されており、スペシャライズドのアクセサリーマウント「SWAT」に対応のサドルならテールライトは装着可能だ。両ライトとも電源ON状態での消灯は不可能。
トップチューブには、電源ボタンとアシストモード切り替え、アシストや航続距離表示があるスイッチ「TURBO CONTROL UNIT」を搭載。ディスプレイやスマートフォンが無くても問題ない。
スイッチは高級感は無いデザインだが非常にコンパクトで押し間違いは無い。スイッチ上部に搭載されているSpecializedのブランドマークを押すと、瞬時に一番パワフルなアシストモードになる。スイッチは外す事もできる。
ドライブユニットはSpecialized SL1.1。Specialized製のオリジナルユニットで、最大出力240W、最大トルク35Nm。一般的なE-Bikeと比較して高出力、高トルクでは無いが、モーターの重量は1.9キロと軽量でコンパクトなのが特徴だ。モーターノイズは現時点ではE-MTB用ユニットでは静かな部類に入るBosch Performance Line CX(定格出力250W、最大トルク85Nm)と比較すると、やや静か。
アシストのフィーリングは、一般的な定格出力250WのE-Bikeのように、パワフルなモーターの力に頼った走り方ができるのではなく。人力自転車で普通に漕いでいる時に、不快な部分を取り除くようなアシストだと思えばいい。アシストに頼る走り方はできないが、漕いだ感覚に併せて自然にアシストを行う独特なフィーリングだ。
また、Turbo VADO SLには、スマートフォンでモーターアシストを調節する「MISSION CONTROL」を搭載している。これは、3種類のアシストモードがあり、各モードでは最大出力およびアシストの持続力の両方を調整できる。
標準の設定では、ピークパワー/アシストは、TURBOモードが100/100、SPORTモードが60/60、ECOモードが35/35。今回のインプレは標準設定でのインプレを行う。
平地は時速24キロ以上でも人力自転車に非常に近い感覚で走行できる
Specialized Turbo Vado SLが他のE-Bikeと違うのは車体が軽く、人力自転車に近い感覚でスピードを出すことができる事。一般的なクロスバイクタイプのE-Bikeは車体重量が19キロと重く、時速24キロを超えると、人力で頑張って漕ぐ必要がある。
しかし、軽量E-Bike「VADO SL」は、一般的なクロスバイクタイプのE-Bikeよりも軽量なため、アシストが切れる時速24キロ以上でも、普通のクロスバイクに近い感覚で漕ぐことで走行できる。これは車体重量が15キロとE-Bikeの中では軽量なのと、漕いだ感覚に併せて自然にアシストを行うからだ。
特に重要なのが漕いだ感覚に併せて自然にアシストを行う事。漕いだ感覚に合わないアシストを行うと、人間はアシストに頼らないで漕いでしまうため、加速しにくくなってしまう。Turbo Vado SLに搭載されている「Specialized SL1.1」ユニットは、漕いだ感覚に併せて自然にアシストを行い、普通に漕ぐため、アシストが切れてもスピードを出すことができるのだ。
その一方で、モーターアシストに頼りすぎて変速をずぼらに行うと加速できない。人力自転車と同じ感覚で変速を行う必要がある。
アシスト切れの速度でも走行感を向上させたい場合、タイヤの交換をおすすめする。VADO SLに搭載されている「Specialized Pathfinder 38c」は砂利道対応のグラベルタイヤなので、舗装路での走行感覚はやや重い。軽快に走りたいのなら、細目のオンロード用スリックタイヤに交換するのがお薦めだ。
車体が軽い利点と欠点は?
Vado SLの車体重量は約15キロと他のクロスバイクE-Bikeと比較して40パーセント軽いと言われている。車体の軽さはE-Bikeでも多くの利点がある。
例えば低いアシストで走行できる事。多くのE-Bikeのアシストモードには、アシスト力が低いエコモードがある。このアシストモードはアシストパワーが少ないため、150キロ以上の長い距離をアシストすることが可能なモデルもある。しかし、多くのE-Bikeはエコモードで走るのは車体が重いため走るのは難しい。
しかし、Turbo Vado SLは一番パワーが少ないエコモードでも走るのが楽しい貴重なE-Bikeだ。これも車体が軽いのと漕いだ感覚に併せて自然にアシストを行う特性だろう。また、車体が軽いということはバッテリーが切れても、平地や緩い上り坂では重いクロスバイクとして走ることができる。そのため、バッテリーが切れた時の不安感が少ない。
走行以外でも車体が軽いと有利な場面がある。自転車を屋内に入れる時など、車体を持ち上げる時もVado SLはE-Bikeの中では楽に持ち上げて移動できる。頑張れば鉄道輪行も可能だ。
軽さを重視することで実用性を犠牲にした部分もある。それはバッテリーの着脱。Specialized Turbo SLシリーズはバッテリーの着脱ができないため、充電を行う場合は車体を室内やガレージに入れる必要がある。購入する際はその部分を考えよう。
上り坂は有利な所と不利な所がある
かつてTurbo Vado SLでヒルクライムを行ったことがある。一般的な定格出力250WのE-Bikeと比較すると、パワー、トルクが薄いため、モーターの力で頼ることができない。しかし、人力自転車よりは遥かに楽に上ることができる。E-Bikeは上り坂を見ても精神的不安感が無いため、体力の過度な消耗を気にしないで走れるが、これはTurbo Vado SLも同じだ。
上り坂を楽に走るには、アシストモードを一番パワフルなターボモードを使う必要がある。しかしターボモードを多用すると、バッテリーの消耗が大きくなる。Specialized Turbo Vado SLは320Whのバッテリーを内蔵しているが、内蔵バッテリーの容量ではロングライドを行うのは厳しい所だ。
Specialized Turbo SLシリーズには、オプションでレンジエクステンダー「SL RANGE EXTENDER BATTERY FOR SL SYSTEM」がある。バッテリー容量は160Whで、デフォルトのECOモードでの航続可能距離を最長65キロに増やすとのこと。充電時間は2時間35分。内蔵バッテリーと組み合わせると、バッテリー容量は480Whとなり、最大航続距離は195キロになる。
SL RANGE EXTENDER BATTERY FOR SL SYSTEMの価格は4万9500円。また、レンジエクステンダーを使用する場合、SL レンジエクステンダーケーブル 220mm ROADか、SL レンジエクステンダーケーブル 160mm MTBを購入する必要がある。価格はいずれも3850円。Turbo Vado SLを購入する場合、オプションのレンジエクステンダーの購入は考えておこう。
長い上り坂では、モーターパワーが少ないため一般的なE-Bikeよりも不利だが、アップダウンが多いルートは有利だ。一般的な定格出力250WのE-Bikeは、アップダウンが多い峠では、上り坂になるとスピードが一気に落ちる。これは人力自転車よりも車体が重いため速度が落ちやすく、アシストが少ない時速20キロ以降やアシストがかからない時速24キロ以降で漕いでも、車体重量と上り坂で人力が負けるからだ。
しかしTurbo Vado SLは、車体重量が15キロと他のE-Bikeよりも軽いので、上り坂でも速度が落ちにくく、アシストが少ない時速20キロ以降やアシストがかからない時速24キロ以降でも漕いでも、人力自転車に近い感覚で加速する事も可能だ。実際、アップダウンでよく見る下り坂を下ったあとの短い上り坂では、下り坂で助走をつけて走ると、殆どアシストを使わない状態で通過することもあった。アップダウンが多いコースでは、同じ獲得標高でもバッテリーの持ちが良いだろう。
車体バランスが良いため人力自転車のようにヒラリヒラリと曲がることができる
一般的なE-Bikeは重いバッテリーとモーターを搭載しているため、車体重量が重いだけでなく、車体バランスが従来の人力自転車と変わってしまうことがある。しかし、Turbo Vado SLは、車体重量が軽く、バッテリーやモーターも軽いため、車体の前後バランスが非常に良い。フロントタイヤに余分な荷重がかからないため余分な抵抗も無く、人力自転車のようにヒラリヒラリと軽やかにコーナーを曲がることができる。
唯一無二のクロスバイクタイプの軽量E-BikeであるSpecialized Turbo Vado SL
Specialized Turbo Vado SL 4.0は、日本市場内のSpecialized製E-Bikeの中では一番安い36万3000円だ。一般的な定格出力250WのクロスバイクタイプのE-Bikeの価格は20万円台後半から30万円台前半なのを考えると割高といえる。更にオプションのレンジエクステンダーを装着すると40万円とクロスバイクタイプのE-Bikeでは高価なモデルと言える。しかし、Vado SLの走行感は他のクロスバイクタイプのE-Bikeには無いだろう。
クロスバイクタイプのE-Bikeを買う時は、Vado SLの特徴である軽さを重視した走行感は知っておくべきだろう。パワーを重視する人には不向きなE-Bikeだが、軽さを重視したクロスバイクタイプのE-Bikeが欲しい人にはお薦めだ。
Specialized Turbo VADO SL4.0のスペック
- フレーム: E5 Aluminum, Fitness/Transportation Geometry, bottom bracket motor mount, fully integrated down tube battery, internal cable routing, fender/rack mounts, Smooth Welds, reflective graphics
- フロントフォーク:Specialized Stealth Stem, alloy, 14 deg, 31.8mm, integrated TCD-W mount
- 重量:-
- ブレーキ:Tektro HD-R290, hydraulic disc
- ギア(前):Praxis, 44t, 104BCD
- ギア(後):Shimano Deore, 10spd, 11-42t
- フロントホイール:Specialized alloy front hub disc, sealed cartridge bearings, 12x110mm, Center Lock™, 24h+700C disc, 22mm rim depth, 21mm internal width
- リアホイール:Specialized alloy rear hub disc, Center Lock™, sealed cartridge bearings, 12x148mm, 28h+700C disc, 22mm rim depth, 21mm internal width
- タイヤ: Specialized Pathfinder Sport, 700x38c
- ドライブユニット:Specialized SL1.1(最大出力240W、最大トルク35Nm)
- アシスト方式:ミッドドライブ
- バッテリー:内蔵式 48V 320Wh
- 充電時間:約2.5時間
- アシストモード:3段階(ECO/SPORT/TURBO)
- 航続距離:最大130キロ
文:松本健多朗
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