E-Bikeサイクリングが、ペダルバイク(人力自転車)と大きく違うのは、坂道が苦にならないこと。E-Bikeでヒルクライムサイクリングは定番となっており、E-Bikeの実力を調べるために、様々なメディアでヒルクライムテストを行っている。そこで、シクロライダーでもE-Bikeヒルクライムテストを実施することとなった。
今回E-Bikeのヒルクライムテストを行ったのは柳沢峠(やなぎさわとうげ)。山梨県甲州市にある柳沢峠は、国道411号(青梅街道)が通り、青梅街道の最高地点として知られている。標高1472メートルで、ハードなサイクリングコースとして有名だ。
柳沢峠を選んだ理由は、かつては、ロードバイクで何回も上った事がある峠だということ。人力ロードバイクで走行した事がある峠をE-Bikeで走ってみたらどうなるのか試す狙いもある。
今回のテストで使用するE-BikeはクロスバイクタイプのE-Bike「Corratec E-POWER SHAPE PT500」。すっきりした見た目を採用するために、内蔵されているバッテリーは500Whの大容量バッテリー「Bosch PowerTube 500」を搭載することで、最大航続距離は160キロを実現し、長距離サイクリングにも対応している。価格は29万8000円(税抜)。
コースは、青梅駅からスタートし柳沢峠まで行くルート。自転車NAVITIMEで調べた所、総距離約58キロ、獲得標高1618メートルと、それなりにハードなコースだ。
青梅~柳沢峠ヒルクライムテスト
午前4時50分に青梅駅からスタート。Corratec E-POWER SHAPE PT500に装着されているディスプレイ「Bosch Intuvia」には、走行条件に応じて航続距離表示が変化する。電源を切ってもいままでの走行条件を覚えている仕様で、ディスプレイ内に表示されている航続距離はカタログ値よりも多い。これは、今まで走っていた道が平地でバッテリーの消耗が抑えられていたのもあるだろう。
柳沢峠まで走るこのコースの特徴は、平地が殆どなく上り坂がメインなのが特徴。その中でも青梅駅から奥多摩駅までは緩やかな上りだ。Corratec E-POWER SHAPE PT500に搭載されているBosch Active Line PLUSは、アシスト力が弱い順にECO/TOUR/SPORT/POWERの4つのモードが用意されており、今回はTOURモードをメインに上ることとした。
5時20分にハイキングで降りる人が多い事で有名な御嶽駅に到着。緩やかな上りを殆ど上っていたが、法律上アシスト力が弱くなる時速20キロ以上で常時走行していたため、メーター上の航続距離は減るどころか、むしろ増えている。緩やかな道では、バッテリーの消耗は抑えられているのがよく分かる。
筆者はこのテストを行うために、午前3時30分に起きて実施している。ロードバイクやクロスバイクといった人力自転車だと、寝不足等でちょっと体調が悪いだけで、通常時よりも速度が落ちてしまうが、E-Bikeのモーターアシストにより、寝不足程度では苦にならずに、サイクリングができる。
また、長距離ヒルクライムを行っているのに、人力自転車と比較して非常に気が楽。今回のテストでは平地は時速20キロ前半で走行しているが、モーターアシストのおかげで身体的、精神的にも余裕がああり、体感的に速く感じる。そのため、所々で景色を見つつ止まりながら走行していた。
6時5分に奥多摩駅に到着。ここまで平均時速20キロほどで走行しているが、体力面に問題はない。航続距離に関しては緩やかな上り坂のおかげで減少している。
奥多摩駅から奥多摩湖までの道は、坂が急になるだけでなく、所々にトンネルが登場する。この場所上り坂とトンネルのおかげで自転車ではあまり走りたくない場所だ。しかし、E-Bikeだと、このように走るのが嫌な場所は、アシストを強くして素早く走れる。
Corratec E-POWER SHAPE PT500に搭載されているドライブユニット「Bosch Active Line PLUS」のスペックは、定格出力250W、最大トルク50Nm。街乗りや舗装路でのサイクリング向けのユニットだ。E-MTB用のシマノ・STEPS E8080(定格出力250W、最大トルク70Nm)やBosch Performance Line CX(定格出力250W、最大トルク75Nm)などパワフルなユニットと比較するとマイルドに感じるが、長いヒルクライムでも必要にして十分なアシスト性能だ。
上り坂を難なくクリアし、6時35分に東京都の貴重な水源として有名な奥多摩湖に到着。人力自転車の場合、青梅から奥多摩湖は十分に準備を行って走るイメージだが、E-Bikeだと庭に近い感覚で行くことができる。航続距離表示は長い坂を上ったため、奥多摩駅と更に比較して少なくなっているのがわかるだろう。
奥多摩湖を抜けて、大菩薩ラインに入り、長い上り坂が始まった。ロードバイクなどの人力自転車の場合、奥多摩湖で相当消耗しており、ここからは時速10キロ程度でゆっくりと走っている状況だ。しかし、Corratec E-POWER SHAPE PT500は電池が切れるまで平地のポタリングのように走れる。
もっとも、上り坂が増えているため電池の消耗を減らすために、アシスト力を不必要に使わないで走る必要がある。Bosch Intuviaディスプレイ右上にあるドライブユニットの出力レベルの見つつ、ペダリングするのが良いだろう。
この出力レベルを見てわかった事は、ある程度軽いギアでクルクルと漕いだほうが程々のアシスト力で長時間アシストしてくれる事。重いギアにして漕いだ場合、力強いアシストが必要だと判断して、パワフルにアシストしてくれるが、電池の消耗も激しくなるため、不必要に力強いアシストを使わないで走行しよう。
7時45分に道の駅たばやまで休憩。メーターで表示されている航続距離を確認すると、奥多摩湖で見た数値とあまり変わらない事がわかるだろう。これは、坂道が緩いのと、不必要に強力なアシストを使わなかったため。疲労感に関しては、人力自転車の時の強烈な疲労感と言うよりも、程よい疲労感に近い。
道の駅たばやまから柳沢峠まで約17キロで、獲得標高は895メートル。航続距離表示を見た限りでは、余裕をもって柳沢峠まで行くことができると思うかもしれない。しかし、ここから先は殆ど上り坂。E-Bikeは上り坂になるとバッテリーの消耗が激しくなるので、過信ないで走行することにした。
8時45分に、アマゴの釣り場やキャンプ場が近くにある「ドライブインふるさと」周辺で休憩。さすがに、足が少し疲れてきたが、観光できるぐらいの脚力は残っている。しかし、バッテリーの消耗は激しく、道の駅たばやまから約11キロ走行するだけで、航続距離が目に見えて減っていった。
航続距離の減りを気にしながら、柳沢峠頂上まで走っていく。時速15キロから16キロほどで上る状況で、疲労感は増えているが、周りの景色をみるほどの余裕は残っている。これが人力自転車だと、周りの景色を見る余裕が無く、一回休むと二度と走りたくないと思う状態だろう。
そして9時20分、ついに柳沢峠に到着。途中でバッテリーも切れずに柳沢峠までたどり着いた。
柳沢峠ヒルクライムでバッテリーはどのくらい残った?平均速度や走行時間は?
今回の柳沢峠ヒルクライムテストでバッテリーはどのくらい残っているのか気になるだろう。Bosch Active Line PLUSはバッテリー残量のパーセンテージ表示が無い代わりに、航続距離表示がある。
航続距離表示はパワフルなモードから順に、TURBOモードで7キロ、SPORTモードで9キロ、TOURモードで11キロ、ECOモードで20キロ。TURBOモード、SPORTモード、TOURモードの航続距離が殆ど変わらないのは、高い負荷の場面では電流の出力に依存するためとも言われている。ECOモードの航続距離が他のモードよりも多いが、ECOモードで上った場合、TOURモードよりも遥かに弱いアシストなのもあるだろう。
バッテリー残量メモリは2個になっているが、柳沢峠頂上少し前から2メモリになっているため、実際は1.6メモリ程度だろう。
走行時間は停車中の時間はカウントしていない状態で約3時間。平均速度は時速20キロ。今回、万が一の電池切れを考えて、サポートカーも来てもらったが人力自転車よりも遥かに速いのに驚いていた。
E-Bikeのヒルクライムの疲れ方はどんな感じ?
E-Bikeは、人間の脚力をモーターで”補助”するため、アシストはあくまでも手助けの役割しか持っていない。運動になるが、人力自転車のような強烈な疲れで観光や景色を見る楽しみができないという疲れ方ではなく、観光や景色を見る楽しみが残っている疲れだ。
また、モーターアシストにより、精神的不安感が無いため、体力の過度な消耗を気にしないで走れるのも大きい。人力自転車の場合。体力の消耗が不安になった場合、スピードを落とす事があるが、E-Bikeは体力の消耗を気にせず走るため、想像以上に運動しているのだ。
500Whバッテリー1本の獲得標高はどのくらい?
今回のヒルクライムテストでは、柳沢峠を下りそのまま青梅駅まで帰るのではなく、山梨県北都留郡小菅村と山梨県大月市の間にある「松姫峠」(標高1250メートル)を上る事にした。柳沢峠を17キロほど下り、道の駅たばやま近くで止まった時、航続距離が増えていたため、バッテリーが切れるまでどれだけ走れるのか気になったのと、サポートカーのドライバーがE-Bikeで上ってみたいと言うことで交代した。
航続距離表示は20キロ以上あったが、松姫峠頂上(バス停)まで僅か1~2キロの所で電池切れとなった。その後、獲得標高を計算した所、約2400メートルと判明。E-MTBの場合、同容量(500Whクラス)のバッテリーを搭載した場合、獲得標高は1500メートルが多い。
E-クロスバイクのCorratec E-POWER SHAPE PT500がこれだけ上れたのは、車体の要因が大きい。平地ではTOURモードでも普通に4漕ぎ程度で時速24キロまで出て、上り坂もE-MTBよりも車体が軽く、舗装路用のタイヤで軽い力で上れるため効率が良いのもあるだろう。
初心者はE-Bikeでハードなヒルクライムが楽しめる?
E-Bikeは初心者でもハードなヒルクライムが楽しめる。しかし、ここで注意したいのはバッテリー容量だろう。
E-Bikeの航続距離はバッテリー容量で決まる。初心者の場合、サイクリング経験者よりもモーターアシストに頼るため、バッテリーの消耗が激しくなる。そのため、E-Bikeでロングライドを楽しみたい初心者は、大きいバッテリーを搭載したE-Bikeを買うのをお薦めする。バッテリーの容量はWhで表すのが一般的で、日本市場では300Whから630Whまでの容量がメイン。舗装路の峠道やロングライドを楽しみたい人の場合、クロスバイクタイプで最低でも400Whは欲しい。できれば500Wh以上のバッテリーを搭載したE-Bikeをお薦めする。
今回のヒルクライムテストで実感したのは、E-Bikeは初心者やサイクリング経験者も坂道が楽しくなる事。初心者は辛い坂道が楽に走る事ができ、人力自転車でも坂道が走る事ができるサイクリング経験者の場合、モーターアシストの余裕を活かして、今まで気になっていた細い道を走ったり、観光が楽しめるだろう。
(参考)Corratec E-POWER SHAPE PT500のスペック
- フレーム: E-POWER SHADOW TUBE アルミ、BOSCH ACTIVE LINE PLUS
- フロントフォーク:E-POWER SHAPE アルミ DISC
- 重量:19.5kg
- ブレーキ:Shimano MT200 hydraulic disc
- ギア(前):CORRATEC アルミ 38T
- ギア(後):SHIMANO CS-HG50、11-36T、10S
- フロントホイール:JD200 700C 14G×36H DISC
- リアホイール:JD200 700C 14G×36H DISC
- タイヤ: CONTINENTALCONTACT SPEED 700x32C Reflex
- ドライブユニット:Bosch Acitive Line Plus(定格出力250W、最大トルク50Nm)
- アシスト方式:ミッドドライブ
- バッテリー:Bosch PowerTube500, 500Wh
- 充電時間:約4.5時間
- アシストモード:4段階(ECO/TOUR/SPORT/POWER)
- 航続距離:165km/110km/95km/85km※Bosch E-Bike Systemから引用
文:松本健多朗
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