世界には自転車に関連した映画はあるが、サイクリストだけでなく一般の人にも注目される映画は少ない。しかし、サイクルロードレースチーム「グリーンエッジ」の軌跡を描いた「栄光のマイヨジョーヌ」は、サイクリストだけでなく一般の人でも楽しめる貴重な映画だ。「栄光のマイヨジョーヌ」は、2020年2月28日に公開されるが、一足先にシクロライダーで紹介しよう。
「栄光のマイヨジョーヌ」はオーストラリア初のプロ・サイクリング・ロードレースチーム、グリーンエッジの発足から5年に渡り、チーム内部から彼らのレースツアーに密着したスポーツ・ノンフィクション映画。原題の「ALL FOR ONE」は、日本語に訳すと「一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために」という意味。これは、過酷な競技の実態、エースを優勝へ導くためアシストに徹する自転車ロードレース特有のチームプレイ、強い信頼関係等を表している。内容もツール・ド・フランスだけでなく、パリ~ルーベ等のツール・ド・フランス以外の他のロードレース等が登場するため、「ALL FOR ONE」の意味を噛み締めながら、映画を見るのをお勧めする。
2010年、オーストラリア人のビジネスマンで起業家のジェリー・ライアンは、オーストラリア初のワールドツアー出場レベルのサイクルロードレースチームを作ろうと思い立つ事から映画は始まる。「グリーンエッジ」チームは、他のサイクルロードレースチームとは違う事でも知られている。例えば、選手は結果だけで選出せず、それぞれの個性や、どのようにチームに溶け込めるかに重点を置いて選定を行う。また、チームの運営も、軍隊的な組織で行うのではなく、競技から離れて楽しむことも重要だと考えていたとのこと。
従来のサイクルロードレースチームには無いエンターテインメントを持っているのも「グリーンエッジ」の特徴だ。ツアー中に、Youtubeでミュージックビデオの口パクや料理動画、ライダーの故郷や競技から離れた普段の生活を紹介する動画「バックステージ・パス」を配信し、人気になった話も取り上げている。
この映画で一番の見どころは、グリーンエッジチームでサイクルロードレースに挑む人達だ。トロフェオ・ライグエーリアの事故により重傷を負い、一度はサイクルロードレースを諦めていたが、グリーンエッジがスカウトし、再びサイクルロードレースに挑む「エステバン・チャベス」、パリ~ルーベの6週間前に腕を骨折するが、それでもトレーニングを続けてパリ~ルーベに挑む「マシュー・ヘイマン」、ツール・ド・フランスでトップの証となる黄色いジャージ「マイヨジョーヌ」を、あえてチームメイトに譲る「サイモン・ゲランス」などの選手や、グリーンエッジチームを支える監督等のドラマは魂を揺さぶるだろう。
「栄光のマイヨジョーヌ」は、サイクルロードレースチームのドキュメンタリーを描いているだけでなく、1つのノンフィクションドラマを描いた映画だ。グリーンエッジの5年間の軌跡を見ている内に、最後はグリーンエッジの一つになった気持ちになるだろう。普段はサイクルロードレースを紹介しないシクロライダーでもお勧めの映画だ。
文:松本健多朗