ホダカのスポーツサイクルブランド「NESTO」の中でも、売れ線のクロスバイクと言えるのがLIMITシリーズだ。クロスバイクの中でも舗装路の走行性能を重視したスピードクロスと呼ばれるジャンルの自転車だ。車体設計からカラーリングまでベストセラーのスピードクロス「GIANT Escape R3」を意識しているNESTO LIMITだが、どのようなクロスバイクなのか解説する。
NESTO LIMITってどういう自転車?
NESTO LIMITシリーズは、一言で言うとEscape Rシリーズのようなスピードクロスだ。フレームは舗装路走行を重視し、ロードバイクよりもややアップライトな乗車姿勢のスピードクロスとしては定番の設計だと思う。フレーム・フロントフォークはアルミ素材を採用しており、5万円以下のスピードクロスでは車体重量9.9kg(フレームサイズ480mm、スタンド等は外した状態で計測)と軽量だ。
LIMITシリーズの中で一番安いエントリーモデルのLIMIT2は、税抜き価格48,000円と安価ながら、1本4,000円クラスのMAXXIS・Detonatorケブラービードタイヤや、シマノ製Vブレーキ(BR-T4000)、ライト・スタンド等を標準装備しており、どうすればそこまで安くなるのかが不思議なほどのバーゲンプライスとなっている。
今回は神宮外苑のサイクリングコースでの試乗に加えワイズロード東大和の試乗会で試乗したが、一言で言うとGIANT 旧Escape Rの正常進化版と言えるスピードクロスだと思った。NESTOのセールスマン曰く、LIMITシリーズは旧Escape Rシリーズを意識したクロスバイクとのことで、旧Escape RX、現行型Escape R3と比較して、スポーティとコンフォートのバランスが取れていてお買い得なクロスバイクだろう。
自分が所有しているGIANT 旧Escape RXとNESTO LIMIT2を比較すると、感覚的に旧Escape RXのほうがよく進むが、一方でビリビリとした振動が良く伝わり、たまに乗り心地が硬くて嫌になる時もある。実際に梅ノ木峠→風張林道→大ダワを走った時、大ダワの檜原方面下りで振動が大きくて嫌になった。写真のEscape RX3にはツーリング用バネ付き革サドルのBrooks Conquestに、乗り心地と耐パンク性能を両立したパナレーサー・グラベルキング28C、手首が痛くなりにくいGIZA ノースロードバー(NR-AL217BT)を装着しているが、乗り心地はNESTO LIMIT2のほうが良く、自分に合わせたEscape RX3のほうが硬い。(2016年モデルから登場した現行型Escape RXシリーズは未試乗)
2015年にモデルチェンジした現行のGIANT Escape R3とNESTO LIMIT2を比較すると、NESTO LIMIT2のほうがEscape R3よりもスポーティだ。なぜかというと現行のGIANT Escape R3は乗り心地が柔らかくてコンフォートなスピードクロスに変わっているからだ。Escape R3には乗り心地が硬いタイヤとして知られているKENDA K193タイヤが装着されているが、K193を装着しているのに乗り心地が柔らかく、今まで試乗したスピードクロスの中でもこれだけ乗り心地が柔らかいスピードクロスは初めてだろう。土浦の無人レンタサイクルを借りて、霞ヶ浦ショートコース(約90km)を走った時、歩道の段差や荒れた舗装路を走ったが、どうすればここまで乗り心地が良いスピードクロスが作れるのかと思ったほど。NESTO LIMIT2も乗り心地は良いが、LIMIT2の場合は、48,000円の自転車では通常は装備されない1本4,000円クラスのタイヤ(Maxxis デトネイターフォルダブル)を装備しているのもある。LIMIT2の場合、1本2,000円程度の低価格タイヤを装備したら、乗り心地が悪くなる可能性があるので、タイヤ交換を行う場合は最低でも1本4,000円クラスのタイヤを装着しないといけないだろう。
現行のEscape R3は乗り心地が良い一方、漕いだ時にダイレクトに前に進む感覚は落ちている。これは旧GIANT Escape RX、旧GIANT Escape Rシリーズ、NESTO LIMIT2と比較すると明確にわかるほどだ。NESTO LIMIT2よりもダイレクトに進む感覚が少ないが、時速20km/hで淡々と走るのなら、漕いでいる時の踏み心地が柔らかい利点もある。踏み心地の柔らかさは旧Escape RXには無い良さを感じることができるだろう。
NESTO LIMIT2とGIANT Escape R3の2台のうちどちらかを選ぶ場合、お買い得さとスポーティな走りを重視するのならNESTO LIMIT2だろう。スポーティで元気に走りたいのなら、Escape R3よりもスイスイ進むし、Escape R3よりも良いタイヤ・ブレーキが付き、ライトやスタンドも標準装備されているため、余分な物を購入しなくて良い。
一方、軽量なロードクルーザーが欲しいのなら現行Escape R3だ。現行Escape R3はスピードクロス特有のロードバイク風味は無いが、KENDA K193タイヤを装着してもスピードクロスにしては乗り心地が柔らかく、スポーティでロード風味を求めない人にとっては面白い素材だと思う。個人的には現行Escape R3にMaxxis デトネイターフォルダブルを装着してみたい。
写真の茶色の自転車がかつて所有していた旧Escape R3で、フレームデザインは現行型Escape R3に似ている。しかし、旧型のほうが漕いだ感じはスポーティでNESTO LIMIT2に一番近い。旧Escape R3は程度にもよるが中古自転車市場で20,000~30,000円ぐらいする。LIMIT2のほうが軽量で、良いタイヤやブレーキが付き価格は税抜き48,000円と安い。旧Escape R3の中古はよっぽどの事が無い限り買う意味は無い。
NESTO LIMIT1とLIMIT2の違い
NESTO LIMITシリーズの上級モデルであるLIMIT1の特徴は、NOVATEC製の軽量なロードバイク用ホイール、振動吸収性が高いと言われているカーボンフォーク、コンポーネントにシマノ・ソラを採用、ロードバイク用のクランク(50-34T)を装備。フレームはマットブラックの塗装にゴールドのロゴを採用し豪華さを出している。車体重量は9.2kgとLIMIT2よりもさらに軽くなった。価格は83,000円。
神宮外苑サイクリングコースで試乗した限りでは、LIMIT2よりも走りは軽いのかもしれないが、ロードバイク用のクランクを装着しているので、このようなスピードクロスとしてはギア比はやや重い。NESTOのフラットバーロード「ALTERNA FLAT」のように、前傾姿勢で踏み込めるのならまだしもアップライトな乗車姿勢のLIMITでロードバイク用クランクを装着しているのは疑問で、46-34Tや48-34Tといった軽いギアがついたほうがLIMIT1の良さが引き立つのでは無いかと思う。ただしシマノ・ソラR3000には46-34Tといった軽いギアを採用したクランクが無いため、何かしらの事情があるのかもしれない。
NESTO LIMIT1とLIMIT2のどちらかを選ぶ場合、LIMIT1はLIMIT2よりも軽量でスポーティさを求める人向けだと思う。自分の場合、自転車は買ったら徹底的に自分好みに合わせて部品交換するタイプのため、エントリーモデルのLIMIT2を買うだろう。
(写真:NESTO ALTERNA FLAT)
NESTO LIMITとVacanzeの違いは?
NESTOには、スポーツサイクルを中心に取り扱うプロショップ向けのプレミアムモデルと、家電量販店などの幅広い店舗で取り扱うスタンダードモデルの2種類に分かれている。LIMITシリーズは、プレミアムモデルに入るが、兄弟車にスタンダードモデルのVacanzeシリーズもあるので比較する人も多いだろう。LIMITシリーズの利点はVacanzeよりも良い部品が付いたハイエンドモデル(LIMIT1)がある、同価格帯のモデル(プレミアムモデルではLIMIT2、スタンダードモデルではVacanze2)では、3000円の価格差以上にLIMIT2のほうがお買い得と言った利点がある。Vacanzeシリーズの利点は取り扱い販売店が多く、どこでも手軽に購入でき、タイヤが32ミリ幅と太いため扱いということだろう。
欠点はもはや車体サイズだけのNESTO LIMIT
48,000円と戦略的低価格を採用したLIMIT2は、部品構成に関してはこれ以上の物を求めるのなら、もっと金を出して別のモデルを買うか、LIMIT2を購入して自分好みに弄るしかないだろう。セールスマン曰くNESTOはよく売れているとのことで、口コミなどの効果により取扱店舗の増えており、時期を見計らって時代のニーズに合った自転車を売り出すと語っていた。
LIMITシリーズの弱みは車体サイズしかないだろう。これはLIMITだけでなくNESTOの自転車全般に言えることだ。話を伺った所もう1サイズ大きいのを希望する人が少なくないようだ。
ライバルのGIANT Escapeシリーズの強みは車体サイズで、エントリーモデルのEscape R3は女性向けのLivシリーズも含めて6サイズあり、Escape RXに至っては7サイズ(Liv含む)もあり、特にLivは女性向けに部品構成を変更している。NESTOも女性向けも作り7種類もサイズを増やせとは思わないが、売れ行きが良い一部グレードに、カラーリングを限定してでもサイズを増やしたほうが消費者にとってありがたい。特に5万円クラスのスピードクロス市場には、身長175cm~のサイズをラインナップしている会社は存在しないからだ。