後付式電動アシスト自転車キット「SwytchBike」が、様々な意味で注目されている。
ロンドンを拠点とするスタートアップ、Swytch Technologyが提供する「Swytch Bike」は、自転車を手軽に電動アシスト自転車に変換できるキット。この製品は、エンジニアのオリバー・モンタギュー氏とドミトロ・クロマ氏によって2017年に設立された同社の主力商品で、折りたたみ自転車やマウンテンバイク、ロードバイクなどの自転車に対応するという。
Swytch Bikeは、250Wのハブモーターを搭載した前輪、ペダルの回転を検知するセンサー、そしてハンドルバーに取り付けるコンパクトなバッテリーパックで構成されている。バッテリーパックは取り外しが可能。
そんなSwytch Bikeは、クラウドファンディングサイト「Kibidango」を通じて発売を予定している。しかし、一部からは構造的な問題で、日本国内法のアシスト比率に適合するのが難しいという意見がある。
クラウドファンディングサイト側は、時速24キロでアシストが切れるため、日本国内の道路交通法に適合していると謳っているが、日本国内法では時速24キロでアシストが切れるだけでは電動アシスト自転車として扱われない。
日本国内での道路交通法上の電動アシスト自転車のアシスト比率の基準は、人がペダルを踏む力とモーターによる補助力の比(アシスト比率)が走行速度時速10km未満では最大で1:2で、時速10km以上時速24km未満では走行速度が上がるほどアシスト比率が徐々に減少し、時速24km以上では補助力が0にならないといけない(道路交道路交通法施行規則 第1条の3第1項 人の力を補うため原動機を用いる自転車の基準)。そのため、日本国内法に合致した電動アシスト自転車を作る場合は、踏力を測定するために必然的にトルクセンサーを搭載する必要がある。
ホンダ ラクーンの機械式トルクセンサーの設計 出典:RACOON 1994.12 (honda.co.jp)
1990年代に登場した初期の電動アシスト自転車にも機械式トルクセンサーが使われていた。ヤマハ発動機の初代PASは遊星歯車機構とスプリング及びポテンショメータを使用。ホンダ ラクーン(UB01)は、トーションバースプリング及びポテンショメータを組み合わせた機械式トルクセンサーが使われていた。
Swytch Bikeにはペダルセンサーという名前の部品を装着しているが、一般的なEバイク用トルクセンサーというのは、ボトムブラケットと似たような形状を採用している。また、Cycling Electricなどの海外レビューを見る限りではケイデンスセンサーと書かれており、回転だけを感知するケイデンスセンサーのみだと思われる。ケイデンスセンサーだけでは、踏力からアシスト比率を測定することはできない。
日本国内の電動アシスト自転車でも、ボトムブラケットにケイデンスセンサーを装着する事例は存在するが、このタイプで日本国内仕様に適合するには、デイトナポタリングバイクのようなディレイラーハンガータイプのトルクセンサーを装着する必要がある。現在のSwytch Bikeの方式で日本国内法に準拠した電動アシスト自転車を作るのはほぼ不可能だと思われる。
Swytch Bikeはセンスが無い設計である理由
日本国内法違反の疑いがあるのではないかと言われているSwytch Bikeだが、そもそもSwytch Bikeは後付電動アシスト自転車キットの中でも乗り物に対するセンスが無い人間が作ったと言えるほど稚拙な設計だ。
配線類の装着方法は非常に粗雑で、磁気ディスクは分割式で壊れやすい構造を採用。ペダルセンサーはボトムブラケット近くにタイラップで固定する方式だが、そこに装着すると軽く足に当たっただけでセンサーがズレで反応しなくなる可能性が高い。
バッテリーも、ハンドルに装着する小型タイプは、90wh、もしくは180whと、街乗りの買い物程度しか走ることができず、大容量バッテリーは、ベルクロを使って車体に装着するため、脱着しにくい割に盗まれやすい。
そもそも、後付式電動アシスト自転車キットでインホイールモーターを採用すること自体がセンスがない証だ。自転車の車輪は直径、リム幅、スポーク数、ハブの規格が多いため、コンバージョンキットに使う位置には不適切だ。また、フロントフォークに重いモーターに加えてモーターパワーが加わるため、フロントフォークの破損リスクがある。インホイールモーターで後付け式電動アシスト自転車を作るのはセンスが無い。
後付け式電動アシスト自転車キットで、センスがある企業のほとんどが、ボトムブラケット部にモーターを装着するミッドモータータイプを採用している。ミッドモータータイプは、素人からすると取り付けが難しいように見えるが、実際の所はこちらのほうが簡単なことが多い。ボトムブラケットの規格は車輪よりも種類が少なく、トルクセンサーやモーターを一つにまとめる事ができるためだ。また、重量物であるモーターを車体中心部に置き、ホイールバネ下重量が軽減できるので、性能面でもインホイールモーターよりも高い。
後付式電動アシスト自転車で有名なのはホンダのSmachariだろう。電動アシスト自転車撤退により、電動アシスト自転車のノウハウのすべてが消えたホンダが作ったSmachariは、社外のモーターとバッテリーを使うのは必然で、ベースとなったモーターとバッテリーは汎用品だった。ただ、別会社の営業曰く実績のある物を使用しており、同氏曰く「組み立ても自転車販売店で経験がある人なら容易」と語っていた。バッテリー容量も252whと街乗りやサイクリング程度なら十分で、バッテリーの取り付け方法もボトルケージに専用台座を装着しがっちり固定することが出来るのに加えて、鍵でバッテリーの盗難防止を行うことができる。
世界的に後付け式電動アシスト自転車キットは、製造物責任の関係で大手が参入しないため、センスがないゴミが跋扈している中、Smachariは汎用品を使いながら完成車で一般ユーザーに販売できる商品になっているのは褒められるべきだろう。それを考えると、簡単に装着するのを考えただけのSwytch Bikeは法律以前の論外だろう。
違法車両の場合、メディアやインフルエンサーは永久追放レベルの不祥事となる
とある自転車メディアの公式Youtubeでは、Swytch Bikeを装着した自転車で公道走行を行っている動画を公開している。この動画を見る限りでは、海外で既に販売されているSwytch Bikeのキットと同じなため、ケイデンスセンサー仕様の可能性が極めて高い。
電動アシスト自転車のトルクセンサーとケイデンスセンサーの違いは、算数の「1+1=2」レベルですぐにわかるレベルで、トルクセンサーとケイデンスセンサーの違いもわからない人が電動アシスト自転車を語るというのは論外だ。
その辺のインフルエンサーは「便利そう、きれい、カッコよさそう、速そう、楽そう、カタログスペック」程度しかわからないが、業界人は「製造工場、故障対策、製造物責任、PSE、法律、関税、サプライヤーの動向」程度は義務教育レベルで理解していないといけない。これが理解出来ていないと、日本仕様を作ることができすに詰む、製造工場に入ることができず交渉すらできない、低精度で水が入りやすくモーターが壊れやすい車体ができる、設計通りの物を作って貰えず頭を抱えるといった何かしらの地獄を見ることになる。
この世界は、乗るだけで他社製モーターのアシスト比率を小数点第2位まで推測できる技術者が存在する(自社で開発を行っているので、開発者からすれば容易なのかもしれないが)など、ロードバイクのインプレが可愛く見える世界なので、そういう世界を知っている人からすれば違法車両というのは簡単にわかることだ。
Swytch Bikeの件に関しては、業界関係者からすれば90パーセント以上の確率で違法モーター扱いされている。そのようなモーターを宣伝したら、業界関係者に同格扱いされているのなら社長や営業、技術者に面と向かって馬鹿にされるだろう。
恐らく、このような容赦ない世界はどこの世界にあると思うが、社長や営業に面と向かって馬鹿にされる実例に近い例を挙げるとHONBIKEだ。
かつて、日本ブランドのツール・ド・フランス用のロードバイクを設計した超一流の技術者が「あんなのは自転車として通用しない(発言ママ)」と言い、日本の超一流を集めたEモビリティ工場某社長が「あんなのが自転車として通用するわけないだろ!(発言ママ)」と激怒し、某自転車販売チェーン店で「あんな玩具みたいな電動アシスト自転車を取り使うわけないでしょ!(発言ママ)」と、ボロクソに言われた史上最悪の電動アシスト自転車「HONBIKE」を、忖度ありで史上最悪評価の判定を行った(忖度なしだと”地球から出ていけ”となる)後、複数の営業や社長から面と向かって「HONBIKEを褒めていたらお前を馬鹿にしていた」と発言していた。もし、HONBIKEを褒めていたメディアやインフルエンサーが、業界の人間から馬鹿にされていないのなら”そういうこと”だと思っていい。(ちなみに、Swytch Bikeの上記動画レビューしている人の1人はHONBIKEを褒めていた)
業界内では法律違反の疑いがある電動アシスト自転車の目は非常に厳しい。法律を守っている電動アシスト自転車ブランドは、現在の蔓延している違法車両に対して怒りを隠さない状況で、警察も東京23区エリアに関しては、ファットタイヤ系のEバイクは大通りで頻繁に取り締まりを行い、定期的に自転車店を訪問して違法車両の修理を行うと罰則を与える指導を行っているほどなのだ。
Swytch Bikeの件に関しては動画内の車両が違法車両の場合、メディアやインフルエンサーは永久追放になって当然だろう。
因みに、Swytch Bikeを紹介しているメディアを運営している会社の投資先「クララモビリティ」は、電動アシスト自転車(Wimo)やシェアサイクル(Charichari)にも投資しており、代表の家本賢太郎氏は、電動アシスト自転車に対して高い見識を持っている。
【神資料】日本の電動アシスト自転車の歴史が丁寧にまとまっている資料を国立科学博物館が出しておられます。技術の系統化調査の一つで、124頁にわたっています。日本で電動アシスト自転車に関わっている人たちは改めて読むべきだと思います。https://t.co/tHEjw0LZJl pic.twitter.com/Op6rwwW9Zv
— Kentaro IEMOTO / 家本賢太郎 (@iemoto) June 24, 2022
必死にebikeのあらゆる規格化を世界中で考えて、ガラパゴスとかなんとか言われようとも日本の道路環境にあった電動アシストをつくって(そもそも世界だってそれなりに国ごとにルール違うからね。日本だけ違うとかじゃないから。)、強制でないにしろ電動アシストの型式認定を必死に受け(しかも試験もその…
— Kentaro IEMOTO / 家本賢太郎 (@iemoto) June 26, 2024
電動アシスト自転車に高い見識を持っている社長が、違法車両の疑いが極めて高い後付電動アシスト自転車キットを安易に宣伝するメディアに投資を行うのは、問題になる可能性が非常に高い。事実確認を行い違法車両だと発覚した場合の事をよく考えるべきだろう。
文:松本健多朗