「DIAPASON」という新名称で呼ばれるこのプラットフォームは、幅広い用途での活用や共創・協業パートナーの探索を進めており、ヤマハ製の電動モーターとホンダの携行型バッテリーを組み合わせた汎用EVプラットフォームとして位置づけられている。
このプラットフォームは自動車とは違い、ホンダ製「モバイルパワーパック」と、ヤマハ製のコントローラーを使用するが、それ以外は比較的自由な構成で車体を作ることができるのが特徴だ。そのため、航続距離に応じたバッテリーの搭載数を調整したり、モーターの選択などが自由にできるため、幅広い電動モビリティを作ることができ、ヤマハ発動機では領域を問わない幅広い活用アイデアや協創パートナーを求めている。
最初に紹介するのが「Concept 451」と呼ばれる農地や中山間地での利用を見据えた業務用パーソナルモビリティ。開発パートナーには、デザイン支援とデジタル製造業領域のブロックチェーン事業を軸に展開するFinal Aimが参加していることで知られている。
Concept 451のデザイン検討では、生成AIから得られた大量のデザイン案と人間のデザイナーの経験やノウハウが融合され、非対称なボディーや6連フロントライト、Aピラーレスなルーフなど、従来では考えられなかった大胆でユニークなデザインが誕生した。
車体デザインはテキスト生成系AIを活用して未来の環境や社会、特定の利用シーンを想定した機能やデザイン要件を問いかけながら、1~2週間で500件を超えるデザイン案を生み出すことが実現。但し、生成AIを活用したデザイン開発では意匠権などの知的財産権に関するリスクがある。それを解消するために、ブロックチェーン技術を活用しデザインデータや知的財産権の真正性や信頼性を保証する開発プロセスを実現。現在、生成AIの活用法では文章やプログラミング、デザインといった所で注目されているが、今後は設計などでも使用されると思われるためブロックチェーン技術を活用して、知的財産権対策を行うのは、様々な企業から注目されるだろう。
他にもDIAPASONシリーズには様々なモデルが用意されている。「Concept 682」は、特徴的なホースライド型の4輪電動モデル。ヤマハが海外レースで使用したカラーリングを思わせる仕様には、オートバイに近いハンドル造形やリアサスペンション近くに配置されたステップにより、4輪のオートバイを連想させる設計となっている。
DIAPASONはバッテリーと制御部分は同じ物を使用することでコストを抑える方式となっているが、その他の部分は自由なのが特徴だ。例えば「Concept 294」は、大きな木製カーゴボックスを備えたモデルで、ソニーグループなどの共創パートナーも名を連ねている。このモデルは、フロント2輪それぞれにモーターを搭載し、LMW技術による傾ける機構を持つ小型電動モビリティで、先程紹介したモデルと比較して車輪の数が異なっている。
リゾート向けの1人乗り電動モビリティがコンセプトの「Concept 350」は、シニアカーのようなサイズ感ながらも後部にゴルフバッグを搭載している。但し、実際の車体サイズは歩行者扱いとなるセニアカーよりも大きくなるため、セニアカー扱いにはならないようだ。
C160はミニマムサイズの1人乗りオフロード電動モビリティ。ユニセックス・都会的なセンスと自然を愛する気持ちや自由な心を表現したスタイリングを売りにしており、各種機能をもつ発光LEDストライブを装備。DIAPASONシリーズの中でも、ドアが無い構造を見ると一番コンセプト車両に近いと言えるだろう。
不整地などの多様な路面環境で移動性を重視した2人乗り電動モビリティのC580は、いわゆるサイドバイサイドビーグルと言われているジャンル。ただ、多くのサイドバイサイドビーグルが前後とも独立懸架を採用しているのに対して、C580は後輪は車軸懸架を採用。車体も先ほど紹介したモデルと比較すると大柄だ。
フィッシングボートを搭載するトレーラーの牽引など、マリンレジャー用途に特化した2人乗り電動ユーティリティモビリティであるC380は、オリジナルエアサスペンション、スポーツシート等によるアメリカンカスタムに加え、小型軽量なe-Axleの搭載により高電費を実現したモデル。パッと見るとゴルフカートに見えるが、SUVを意識した力強いエクステリアやカスタムパーツにより、レジャー向けに進化したモデルとなっている。
DIAPASONシリーズが面白いと思うのが、まずバッテリーにホンダモバイルパワーパックを採用していること。
モバイルパワーパックは、電動モビリティの主要な課題である長い充電時間、限られた航続距離、そしてバッテリーの高コストを解決するために設計されたバッテリーで、取り外し可能なだけでなく、ホンダ製品だけでなく、様々な電動モビリティや家庭用の定置バッテリー、屋外でのポータブル電源としての使用を可能なので応用範囲が非常に広い。
このようなバッテリー交換式モビリティでは台湾のGogoroが有名だが、Gogoroは現時点では電動スクーターでしか使用できないのに対して、ホンダ モバイルパワーパックは電動スクーター、短距離用商用軽バン、オートリキシャー、超小型パワーショベルなどに使うことができるため、充電インフラに困らない可能性が高い。
2つ目は車両設計の自由度の高さ。スピードが出る自動車やオートバイの場合、様々な安全基準があるため、自由な設計を行うことができないという問題があるが、DIAPASONは低速モビリティのため、安全基準が緩く自由なモビリティを作ることができるので新規企業が参入して新しい発想のモビリティを作ることができる。
今回のコンセプトモデルは、法律の縛りを無視して製作されており、仮に市販化を行う場合、日本国内法では法の枠組みに入れない車両が殆どのため、市販化の予定は無いと思われる。ただ、DIAPASONのような低速モビリティは世界的に必要だろう。
関連リンク