エンジンやモーター付きの乗り物で重要な事の1つが環境に優しいだけでなく、燃費運転で長い距離を走れるエコドライブだ。一般的にエコドライブと言えば、ふんわりアクセルでゆっくり加速するのが一般的だ。
しかし日本版E-Bikeの世界では、エコドライブはアシストモードを最強にして、フル加速で走るのが長い距離を走るコツとして知られている。クルマやオートバイで言うならば、ゼロヨン加速が良ければ良いほどエコドライブと言っているように聞こえるだろう。しかし、E-Bikeはパワードスーツという目線で見て、日本版アシストの特性や、実際に長時間乗ればその理由はわかる。今回、日本版Eバイクの効率的な走り方を解説する。
日本の電動アシスト自転車の法律
電動アシスト自転車の出力基準は道路交通法施行規則第一条の三で次のように規定される。
第一条の三 法第二条第一項第十一号の二の内閣府令で定める基準は、次に掲げるとおりとする。
一 人の力を補うために用いる原動機が次のいずれにも該当するものであること。
イ 電動機であること。
ロ 二十四キロメートル毎時未満の速度で自転車を走行させることとなる場合において、人の力に対する原動機を用いて人の力を補う力の比率が、(1)又は(2)に掲げる速度の区分に応じそれぞれ(1)又は(2)に定める数値以下であること。
(1) 十キロメートル毎時未満の速度 二(三輪の自転車であつて牽けん引されるための装置を有するリヤカーを牽けん引するものを走行させることとなる場合にあつては、三)
(2) 十キロメートル毎時以上二十四キロメートル毎時未満の速度 走行速度をキロメートル毎時で表した数値から十を減じて得た数値を七で除したものを二から減じた数値(三輪の自転車であつて牽けん引されるための装置を有するリヤカーを牽けん引するものを走行させることとなる場合にあつては、走行速度をキロメートル毎時で表した数値から十を減じて得た数値を三分の十四で除したものを三から減じた数値)
ハ 二十四キロメートル毎時以上の速度で自転車を走行させることとなる場合において、原動機を用いて人の力を補う力が加わらないこと。
ニ イからハまでのいずれにも該当する原動機についてイからハまでのいずれかに該当しないものに改造することが容易でない構造であること。
二 原動機を用いて人の力を補う機能が円滑に働き、かつ、当該機能が働くことにより安全な運転の確保に支障が生じるおそれがないこと。
人の力に対するモーターによるアシスト比率が時速10キロ未満では最大2。時速10キロ以上では走行速度が上がるほどアシスト比率が徐々に減少して、時速24kmキロでは0になる減衰式アシスト出力を採用している。
日本式E-Bikeのエコドライブのコツは「最強アシスト・フル加速」
日本式E-Bikeのエコドライブのコツは「最強アシスト・フル加速」。シマノ STEPSなら「HIGH」モード、Bosch Performance Line CXなら「TURBO」か「EMTB」モードに設定し、強力なトルクで瞬時に時速24キロまで引っ張り、アシスト外領域まで持っていくのだ。
自動車やオートバイでは、ふんわり加速でエコドライブを推奨する一方、E-Bikeでは最強アシスト・フル加速でエコドライブが一般化しているのか。
それは日本式アシストの特徴が関係している。日本の法律では高速域でアシストが少なくなるため、エコモードでアシストを行うと、脚力の消耗が大きくなる。そのため、時速20キロ以上の薄いアシストやアシストオフの速度になると、車体の重さで人力トルク負けして加速が遅くなる。特にアシストが切れる時速24キロ以降が顕著だ。
その一方で、最大のアシストモードを使うと、楽に発進できるがアシスト力が高いと電池の消耗も激しくなる。しかし、一般的なE-Bikeなら時速24キロまでわずか2.5秒から3秒で達成し、時速23キロから24キロほどで巡航するのが一般的だ。時速20キロを超える速度では、アシスト力が少なくなり電池の消耗も抑えられる。そのため日本仕様のE-Bikeは平地を時速23キロでずっと走っていると、航続距離の表示が減らなかったり、航続距離表示が増える現象が発生することもある。実際、トルクが弱いエコモードでダラダラ加速した場合と、トルクが強いHIGHやTURBOモードで一気に加速した場合では、後者のほうが人力速度域の加速や速度維持が容易だ。
洞察力が高い人はカタログでの航続距離が剥離するのでは?と思うだろう。自転車協会が定める電動アシスト自転車の「一充電あたりの走行距離」は、最大でもアシストを積極的に活用する時速15キロしかスピードが出ないため、カタログ値よりも実際の航続距離は伸びることが多い。HIGHモードで90キロ走行できるフルサスE-MTB「BESV TRS2 AM」で、HIGHモードを使い、淡路島1週150キロ(獲得標高1200メートル)を達成した実例もある。
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低アシストモードをあえて使う場面
「最強アシスト・フル加速」エコドライブを知ると、低アシストモードの意味があるのかと疑問に思うかもしれないが、意味はある。
1つ目は住宅街など意図的に低速で走行する場面。この場合、エコドライブよりも周囲の安全が重要なのに加え、強力なアシストで低速走行すると電池の消耗が激しくなるからだ。因みに、低速走行の中でも電池の消耗が激しいのがオフロード走行。オフロードはアシスト領域が高い時速20キロ以下で走行するだけでなく、道が荒れており、強力なアシストを多用するため電池の消耗が激しい。
2つ目は、荒れた道など、高いアシスト率で走行するとスリップするような場面。このような場面では最大アシストモードで走行するとスリップして転倒してしまうため、わざとアシスト力を落として走行するのが一般的だ。
欧州版E-Bikeでは、最強アシスト・フル加速のエコドライブができない理由
日本版E-Bikeはロングライドが容易なのに対し、欧州版E-Bikeはどうなのか。EU仕様は時速25キロまで一定にアシストできるため電池の消耗が激しいだろう。Bosch E-Bike Systemの海外サイトでは、Range AssistantというWebページがある。これは走行条件を事細かく設定することで、実際の航続距離がわかるというもの。試しにBosch Performance Line CX+500Whバッテリーを搭載したE-MTBでTURBOモードで時速24キロ巡航を行った場合の航続距離を調べてみた。
距離はなんとわずか55キロ。因みにeMTBモードで62キロ、TOURモードで72キロ、ECOモードで110キロのためロングライドは夢だ。因みに日本仕様の場合、カタログ値でTURBOモードで79キロ、eMTBモードで99キロ、TOURモードで101キロ、ECOモードで140キロ。しかし、前にも書いたとおり日本仕様の特性を活かせばTURBOモードで100キロ超えも不可能ではない。
筆者は何回かEU仕様のE-Bikeに乗ったことがあるが、いくらEU仕様でもアシスト比率が下がるモードは力が無い。日本仕様のように常時ハイモード中毒に陥ると「何が悲しくて電池消耗対策でエコモードにしないといけないのか」と思うようになる。
そのため、海外のE-Bikeにはバッテリーを2個装着した「デュアルバッテリー」仕様も存在する。大容量バッテリーを2つ搭載することで1000Whクラスを実現し、最大航続距離は500Whバッテリーの2倍以上を実現した。Range AssistantでBosch Performance Line CX+500Wh×2バッテリーで調べると、TURBOモードで110キロ、eMTBモードで126キロ、TOURモードで145キロ、ECOモードで220キロ。これで、何とかロングライドが楽しめるレベルだが、日本仕様には及ばない。
日本版E-Bikeの欠点は、加速性能が車体性能に委ねられること
日本版E-Bikeの欠点は、加速性能が車体性能に委ねられることだ。これは、アシスト力の減退領域のおかげで高速域では人力の比率が大きくなるため、日本版E-Bikeは遅いというイメージがつきまとっている。
しかし、TREK Rail9.7等の登場により、日本版E-Bikeは遅いというイメージは変わりつつある。筆者はTREK Rail9.7を借用してサイクリングロードから峠、トレイルまで約380キロほど走ったが、舗装路で驚いたのが時速24キロを超えてからペダルを踏んだ感覚が人力自転車に近い感覚で進むこと。筆者の場合、アルミフルサスE-MTB「BESV TRS2 AM」の平地巡航が時速23キロなのに対し、TREK Rail9.7は時速26キロで巡航でき、時速30キロで平地走行する人力自転車なら容易についていけると感じた。
Bosch Performance Line CXのような汎用的E-Bikeユニットで、この領域まで達成してしまった現在、E-Bikeが遅いというイメージは、遅い車体のE-Bikeしか乗ったことが無いか、単なる妄想にしか過ぎない。近い内に手頃な価格で時速30キロで人力走行できるE-Bikeがやってくるだろう。
文:松本健多朗