今までの人力MTBでは苦痛だった上りのダートや、舗装路の平坦、上り、下りが楽しめるE-MTB(電動アシストマウンテンバイク)。日本市場でも様々なE-MTBが発売されているが、注目なのがBosch Performance Line CX搭載のE-MTBだ。シクロライダーでは、Bosch Performance Line CXに注目しており、サイクルモードの試乗コース、トレイルアドベンチャーよこはま(MTBコース)で試乗を行い、その都度、評価している。
しかし、今まで紹介した場所はどれもリアルな道から離れた場所で評価を行っている。他のメディアでもE-MTB≒トレイルやオフロードで走る物と認識されているため、公道等リアルな道でテストを行っている所は少ない。
今回、東京都福生市にある自転車ショップ「遊輪館」の協力により、Bosch Performance Line CXを搭載したフルサスE-MTB「SCOTT GENIUS eRIDE JAPAN SPEC LIMITED」を舗装路と河原のがれ場でテストすることができた。
SCOTT GENIUS eRIDE JAPAN SPEC LIMITEDは、トレイルライドからダウンヒルコースまで対応したフルサスE-MTB。27.5インチと29インチが両立できるフレームには、SCOTT独自のサスペンションジオメトリー可変システム「TWIN LOCK SYSTEM」を搭載し、ハンドルに装着されたレバーにより前後サスペンションの調節が可能だ。フロントフォークはRockShox 35 Gold RL DebonAirで、リアサスペンションはX-Fusion NUDE Trunnion SCOTT custom。コンポーネントはSRAM SX Eagle 12段変速。タイヤはフロントは Schwalbe MagicMary 29×2.6″でリアは、Schwalbe Hans Dampf 29×2.6″。価格は580,000円。
時速24キロギリギリまでアシストを追い込んでいるセッティング
日本の電動アシスト自転車の法律では、時速10キロから時速24キロまでは1対2から0までの線形逓減補助を行わなければならない。このアシストの利点は、時速22キロ以上で走行する場合、バッテリーの消費を抑えることができるため、平地ではカタログ値よりも長距離走行ができる事だ。
欠点は、法律に合ったアシストセッティングが難しい事。日本の法律では時速24キロまでアシストが可能だと言われているが、ドライブユニットによっては、時速24キロまで追い込んでいない物もある。物によっては時速22キロでアシストが切れて、人力走行を強いられるユニットも存在する。
Bosch Performance Line CXに関しては、時速24キロギリギリまでアシストを追い込んでいる。法律ギリギリまでアシストを行ってくれると、向かい風やちょっとした坂道でスピードが落ちても、モーターアシストで助けてくれるのだ。
E-MTBはモーターの力により舗装路サイクリングが苦にならない。特に、今回試乗したBosch Performance Line CX搭載フルサスE-MTB「SCOTT GENIUS eRIDE JAPAN SPEC LIMITED」は、車体性能の高く、本格オフロード走行に対応する29×2.6インチのシュワルベ製MTBタイヤを装着しているのに「普通のサイクリング程度ならE-MTBの自由度が阻害されるので、舗装路走行用のスリックタイヤに変更したくない」と思ったほどだ。
人力MTBが尻込みしそうな”がれ場”でも走れてしまう理由
マウンテンバイクの楽しみ方と言えば、砂利道やトレイル等のオフロード走行だろう。しかし、E-MTBはオフロード走行だけでなく、従来の人力MTBではできない遊びが楽しめる。
E-MTBならではの遊びの1つに、がれ場をゆっくりと走ったり、再発進が難しい場所でわざと止まり、ゆっくりと発進させる遊びがある。クルマやオートバイで言うとスタックしやすい場所にわざと止まって発進させるようなものだ。人力MTBやクルマやオートバイではやりたくない遊びだが、E-MTBなら躊躇なくできる。これはモーターアシストで石を乗り越える事ができ、クルマやオートバイより軽いため、万が一失敗しても車体が軽いので簡単に脱出できるからだ。
この”がれ場遊び”は、どんなE-MTBでもできるわけではない。うまく再発進ができない、後輪がスリップして発進しないE-MTBもある。仮に発進できたとしても、勢いよく飛び出してしまう物もあるが、これも駄目。乗り手の心を読み取り繊細な脚の力に合わせてアシストを行うドライブユニットでないとできない楽しみ方だ。
Bosch Performance Line CXに関しては、このような”がれ場遊び”ができる。”がれ場遊び”ができる理由には様々あるが、最初に興味を持ったのがフリー機構。車体中心部にモーターが搭載されている「ミッドドライブユニット」を搭載したE-Bikeのフロントクランクはフリー機構が入っているのが殆どだ。
このフリー機構が大雑把だと、ペダルを踏み、アシストが反応するまでの間がスカスカしている事があり、脚の反応に追従せずアシストが作動しない事がある。特にがれ場遊びのような場面では問題だ。フリー機構が大雑把なモデルは、必要最低限ギリギリのトルクで進まないといけない場面でアシストが反応しないので、踏む力を強くすると一気にアシストが強くなりリアタイヤがスリップして失敗するか、勢いよく車体が飛び出てしまう。
Bosch Performance Line CXのフリー機構は非常に細かく、ペダルを踏みアシストが反応するまでの間が短いため瞬時に反応してくれる。さらにアシスト性能も良く、脚力に合わせて繊細にモーターアシスト行ってくれる。これにより、乗り手が考える理想の漕ぎ方を限界まで追い込めるため、がれ場発進の成功確率が大幅に上がった。
SCOTT GENIUS eRIDE JAPAN SPEC LIMITEDの価格は580,000円(税抜)。価格は安くないが、SCOTT独自のサスペンションジオメトリー可変システム「TWIN LOCK SYSTEM」や、SRAM SX12段変速の11-50Tという超ワイドスプロケット、Bosch Performance Line CXドライブユニット等を考えると、妥当な価格だと思う。フルサスE-MTBは125CCオートバイや人力フルサスMTBよりも高価だが、人力MTBでは不可能な道を走行し、クルマやオートバイでは入れない所も走行できる「フルサスE-MTBの形をしたパワードスーツ」という新しいジャンルのプロダクトと考えれば、高くないと感じるだろう。
SCOTT GENIUS eRIDE JAPAN SPEC LIMITEDのスペックを見る
関連リンク
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文:松本健多朗