1993年、ヤマハは量産車世界初の電動アシスト自転車「PAS」を発売し、モビリティの流れを大きく変えた。一番影響を受けたのは、原動機付自転車(50CC)で、最終的に原付市場を破壊した。これにより、日本の原動機付自転車(50CC)市場は、80年代のトラバント、ヴァルトブルク、FSO、アフトヴァース等、共産主義国家の自動車ラインナップを彷彿とさせる状況になってしまった。
そして欧州を中心に流行しているE-Bikeが、日本にも入りつつある。電動アシスト自転車よりもナチュラルなフィーリングを採用したドライブユニットを採用したE-Bikeは、原動機付自転車ユーザーよりも高所得層を狙うことで、一気に花開いた。BoschやShimano、Yamahaの一流メーカーのE-Bikeユニットを積んだE-Bikeは「自転車型パワードスーツ」と言えるモビリティに進化している。そんなE-Bike旋風の中、従来のロードバイクやクロスバイクは衰退するのだろうか。
衰退するスポーツ自転車の特徴は”重い自転車”と”乗りにくい自転車”
E-Bike の登場で衰退する自転車の特徴を挙げるとするならば、”重い自転車”や”乗りにくい自転車”だろう。”重い自転車”というのは、車体重量が重い自転車の事。車体が重いと加速が悪く、キビキビとした発進ができないだけでなく、持ち上げるのも難しくなるため、自転車の良さがスポイルされてしまう。
重い自転車の一例を挙げるとすればトレッキングバイクだ。日本では殆ど普及していないトレッキングバイクは、ドイツを中心に普及している自転車で街乗りやサイクリングを楽しむための自転車。写真のようにフルサスペンション、フェンダー、車体と一体のリアキャリア等を装着したモデルもあり、このようなタイプだと、車体重量は20kgを超える場合もある。ここまで来ると、もはや人力自転車にするのがおかしいと思えるほどだ。実際、2011年では人力自転車だったRiese und Muller HomageはE-Bike化され、人力モデルは消滅。重い人力自転車とさらに重いE-Bikeなら、さらに重いE-Bikeを選んだほうが楽しく走れるため、E-Bike化は当然の判断だろう。
因みに、Rise And Mullerは人力自転車に関しては折りたたみ自転車の「Birdy」以外はE-Bikeしかラインナップしていない。Riese und MullerのE-トレッキングバイクは、独創的な物が多くあり、その中でも、Superdeliteは、乗り心地とトラクション向上のためのフルサスペンション、実用性も重視するためのリアキャリアとスタンド、長距離走行のための500Wh×2のデュアルバッテリーと、オートバイのようなE-Bikeも用意している。トレッキングバイクやカーゴバイク等の重い自転車はE-Bike化が避けられないだろう。
”乗りにくい自転車”はスポーツサイクルに乗ったことが無い人や、初心者にとって乗りにくい自転車の事。多くのロードバイクは、前傾姿勢がキツイ、ギアが重すぎて漕ぐのが大変、タイヤが細すぎて不安定などの問題があり、購入しても辞めてしまう事が少なくない。
それが、E-Bikeだとモーターの力で発進、坂道などをアシストしてくれるため、未経験者や初心者が挫けそうな場面でも挫けないで走りきれるだろう。また、タイヤを太くしたり、前傾姿勢を緩くし乗りやすい設計に変更しても、快適なサイクリングが楽しめる。将来の自転車バイヤーズガイドでは、スポーツ自転車未経験者はE-Bikeを薦める時代が来るだろう。
人力スポーツ自転車が生き残る条件は”軽さ”と”折りたたみ”
重い自転車でも快適に走る事ができ、従来の人力スポーツ自転車よりも乗りやすさを追求できるE-Bike。人力スポーツ自転車が生き残るには”軽さ”と”折りたたみ”の2つで生き残るしかないだろう。
軽さというのは、当然ながら車体重量の事。E-Bikeはモーターとバッテリーを装着したお陰で、従来の人力自転車よりも重い。特に長距離走行を行うために大容量のバッテリーを装着したモデルは車体重量18~19kgは当たり前の物が多い。自転車はクルマやオートバイとは違い、車体を持ち上げてクルマに積んだり、家の中にしまう事が多いため、車体が軽いというのは重要だ。また、平地を快適に走る場合、E-Bikeではアシスト規制を超えた速度で走る事が殆どだ。法律では10km/hを超えた場合、24km/hに向かって逓減を行うため、24km/hに達するとアシストを停止する必要がある。人力自転車で快適に走行できる場所ではE-Bikeのアシストは弱い、もしくは効かない場合が多くあるだけでなく、24km/h以上の速度を出そうとしても車体重量が重いため、アシストが作動しない領域では加速が悪い。
ヤマハ・YPJ-RやYPJ-Cのように、超小型バッテリーを搭載することで、人力自転車のようなハンドリングと、アシストが切れても人力で加速しやすいE-Bikeもあるが、このようなE-Bikeはバッテリーが小さいため航続距離が短いため、E-Bikeらしい楽しみ方はできない。
もう1つの折りたたみは、折りたたみ自転車の事。E-Bikeはバッテリーやドライブユニット等を搭載するため、車体設計にある程度のゆとりが必要だが、折りたたみ自転車は構造的にゆとりが少ない物が多く、バッテリーやモーターの搭載で問題になる事がある。また、バッテリーやモーターを積むと、自転車が重くなり、折りたたんだ状態での移動が難しい。競技用自転車や軽量自転車、折りたたみ自転車など、人力自転車の利点を活かした自転車はE-Bikeと共存するだろう。
22世紀にはE-Bikeは消滅して人力自転車が君臨するかもしれない理由
筆者は、E-Bikeを「モーター付き自転車」ではなく「自転車型パワードスーツ」と考えている。これは、一流メーカーのE-Bike用ドライブユニット(Bosch Performance Line CX、Shimano STEPS E8080、Yamaha PW-X)を搭載したE-Bikeに乗った時、人間の筋肉に同調するかのようなアシストをしてくれるため、このような考えに行き着いた。特にBosch Performance Line CXのeMTBモードは、乗り手の思うがままにアシストを制御し、日本のE-Bikeシーンに新たな扉を開けたと言っても良い。
そして、これら「自転車型パワードスーツ」と言えるE-Bikeに乗っているうちに、このような未来予測が浮かんできた。
「遠い未来、人間はE-Bikeではなくパワードスーツを着て人力自転車に乗るかもしれない。」
電動アクチュエーターや人工筋肉などの動力を使用し、外骨格型や衣服型等のプロダクトがあるパワードスーツは、2020年現在、軍用での研究や介護や製造などの現場で使う物がメインで、発展途上のジャンルだ。防衛装備庁が開発しているパワードスーツは、動画によると4km/hの歩行で2時間の使用が可能のため、本格的な実用化に関してはまだまだ先だろう。
しかし、パワードスーツでサイクリングを行う時代が絶対来ないとは言えない。例えば、飛行機やロケットは100年で全く別物と言えるほど進化している。飛行機は1903年にライト兄弟が初飛行を行い、50年も経たずにジェットエンジンを使い最高速度1000km/hを超え、100年後は空の旅が当たり前になった。ロケットも同じく1903年に「宇宙旅行の父」と言われるコンスタンチン・エドゥアルドヴィッチ・ツィオルコフスキーが、ロケット工学に関する論文を発表し、70年も経たずに人類が月に踏み入れた。現実的なクルマにしても、90年代に発表したトヨタ先進安全実験車(ASV)に搭載されている機構は、2020年では実現可能な技術や実現されている物ばかりだ。このような歴史を見た限り、技術的な進化があれば家庭用パワードスーツは非現実的とは言えないだろう。
参考)トヨタ先進安全実験者(ASV):https://www.denso-ten.com/jp/gihou/jp_pdf/26/26inJ.pdf
仮に、家庭用パワードスーツが実用化されたら、E-Bike用ドライブユニットを製造している会社はどうなっているのか?恐らく、これらの会社はサイクリングに耐えうる家庭用パワードスーツを製造し、今のE-Bike業界と同じく世界中で家庭用パワードスーツの覇権争いを行っているだろう。
E-Bikeは遠い未来の「パワードスーツ」を自転車を通して触れる事ができるモビリティだ。この記事を読んだ人は、Bosch Performance Line CX、Shimano STEPS E8080、Yamaha PW-Xを搭載したE-Bikeに乗って、その意味を確認してほしい。
文:松本健多朗